2023.8月 『JSFM ねこ医学会』ポスターセッションにて発表しました。

後躯麻痺の猫と楽しく暮らす

~家族として受け入れる~

札幌市動物管理センターより2匹の後躯麻痺の猫を引き取った。

後躯麻痺でも、世話の仕方や周りの理解と協力でかけがえのない伴侶となることを報告する。

障害のある猫が自分の不自由な身体を受け入れ、残りの機能を余すことなく使い日常を送る様子は

日々私達に勇気と尊敬の念を抱かせる。一緒に暮らす喜びと、お世話のコツを知ってもらい

障害のある猫を引き取る機会があれば躊躇なく受け入れて頂きたいと強く願う。


受入時の状況

症例① ゾロくん

生後6ヶ月、交通事故直後に

動物管理センターに収容される。

脊椎損傷しており後躯麻痺。

排尿障害あり。


現在の状況

症例① ゾロくん

 

  • 当初は尿漏れがありオムツだったが、圧迫排尿を行ううちに蓄尿ができ、尿漏れが全く無くなり、圧迫排尿が必須となる。
  • 感覚がない後躯のグルーミングは行わない。
  • 排便した自覚がなく、突然現れた便に驚くこともある。
  • 前脚のみで素早く移動できる。

受入時の状況


症例② タップくん

推定5歳、左前腕と上腕の骨折

(他院で治療済み)左腕運動障害。

 

 

原因不明の後躯麻痺。排尿障害。


現在の状況

症例② タップくん

  • 4~5時間毎に圧迫排尿するとオムツは不要。嬉しい事があると犬のように嬉ションをしてしまうので、長時間の留守中はオムツが必須。
  • 現在スタッフ宅で二匹の猫と一定の距離感を保ち、穏やかに日々を過ごしている。
  • 引き取ってからしばらくは蓄尿できずお漏らしをして、後肢や部屋を汚していたのでオムツ使用開始。
  • 四肢のうち、きちんと動かせるのは1本だが、一生懸命に動き自分の生きたい場所に移動できる。

圧迫排尿のコツ

  • 食事中は攻撃行動も減少し、食べることに集中するので、腹部の緊張も少なく実施しやすい。
  • 嫌がる、排尿量が少ないときは無理せず、処置回数を増やす。
  • 陰部をこすって刺激することで排尿することもある。
  • 💩が硬いと排尿させずらいので食物繊維の多い食餌がお勧め。

まとめ

 猫の身体状況によって圧迫排尿の方法も難易度も異なるが、全ての猫が難しいわけではない。

事故等で後躯麻痺、自力排尿が困難な猫が来院したら、治療と並行し早期に排尿処置を施すことで膀胱アトニー*になるリスクを軽減できると考察する。*(膀胱の過剰な拡張により膀胱の収縮機能が欠如した状態)

 

 後躯麻痺の猫は普通の猫が行う事も、非常な努力を必要とする。

しかし残された身体機能を駆使し、猫らしく日々送る姿に感動を覚える毎日である。

 本発表で障害のある猫へ、手を差し伸べ易くなる事を強く願う。